不適合情報

2024年9月4日

  • 規定外のプロトコール治療
  • 重大
  • 先進医療B

#240605 規定外のプロトコール治療に関して発生した不適合事例(介入薬の期限切れ)

概要

告示番号 21
先進医療技術名 イマチニブ経口投与及びペムブロリズマブ静脈内投与の併用療法 
医療機関名 慶應義塾大学病院 

【不適合の内容】
内容: 期限切れの試験薬(ペムブロリズマブ)の投与
発生日: 2024年8月21日
発生場所 腫瘍・免疫統括医療センターサテライトファーマシー及び腫瘍センター
臨床研究の対象者の影響: 副作用なし、有害事象あり

【詳細】
本試験の試験薬はイマチニブとペムブロリズマブの2剤で、このうちペムブロリズマブは試験薬提供者(MSD 株式会社)より無償提供されており、院外(三菱倉庫)に保管されている。
本試験への参加を希望され、慶應義塾大学病院皮膚科を2024年7月24日に初診で来院した悪性黒色腫の患者が、7月27日に参加同意され、スクリーニング検査を経て8月7日に登録となった。登録翌日の8月8日、試験薬管理部門(薬剤部治験薬管理室)より三菱倉庫にペムブロリズマブの搬入依頼をし、8月20日に搬入された。
試験薬投与については、登録後の8月9日に電子カルテ上注射オーダーされ、投与日である8月21日14時13分の診察時に実施確認 「可」 (試験薬の調製可という医師から薬剤師への確認オーダー、以下、実施可)の判断を発出、診察後の15時42分より30分ほどかけて腫瘍センターで投与された。しかし投与終了後、誤って使用期限切れのペムブロリズマブ(以前搬入された試験薬)が調製され、投与されたことが16時30分頃に発覚し、16時45分頃に主治医 研究責任医師に連絡があった。なお、投与された試験薬の使用期限は2023年11月であった。

対応状況

【不適合が発生した理由】
1.試験薬管理体制と使用期限チェック体制の不備
本試験は、診察室(1号館)での「実施可」後の連絡が治験薬管理室(2号館1階)に入らない運用となっていたため、担当医師の「実施可」入力後、速やかに混合調製に移行できるよう、腫瘍・免疫統括医療センターサテライトファーマシー(1号館3階、以下、サテライトファーマシー)内にて試験薬を保管する運用となっていた。なお、治験薬管理室とサテライトファーマシーは別棟であり、管理はいずれも治験薬管理室担当者である。
当院の多くの治験では、医師の「実施可」後、CRCから治験薬管理室に電話連絡を行い、その後に治験薬管理室からサテライトファーマシーへ治験薬を搬送する運用を行っている。先進医療B試験や患者申出療養試験などは、医師の「実施可」後にサテライトファーマシーで保管する試験薬を使用する運用となっており、現在後者で注射薬を含む試験は本試験のみとなっていた。
2023年11月6日の時点で、治験薬管理室担当薬剤師は当該試験薬の使用期限が2023年11月末であることを研究事務局である当院皮膚科と共有し、研究対象者候補者が現れるまで新規在庫の確保は見送りとすることとしていた。この時点で使用期限切れとなる当該試験薬を速やかに隔離し、回収・廃棄の検討を行わなければならなかった。また、同25日には、試験薬管理簿に「0+12」(使用可能な試験薬+使用不可の試験薬)と使用が出来ない薬剤が在庫されている記載を行ったが、腫瘍・免疫統括医療センターサテライトファーマシーからの当該使用不可試験薬の回収や隔離対応はしていなかった。
試験薬管理簿に上記記載があったことにより、月1回の使用期限チェックを担当する治験薬管理室担当薬剤師は、当該試験薬が既に使用期限切れについての対応(隔離)を実施済みであると思い込み、実際の試験薬保管状況を確認せず、その後の月1回の使用期限チェックも通過した。

2. 新規研究対象者発生後の治験薬管理室の情報共有不足とサテライトファーマシーへの試験薬搬送の遅延
2024年8月8日、治験薬管理室は新規研究対象者に関しての情報を皮膚科より電話にて受けたが、夏季休暇による試験薬搬入業者の休業のため、最短の搬入期日である8月20日に搬入とし、患者には8月21日以降の投与とすることを皮膚科と確認した。この内容について、電話を受けた治験薬管理室担当薬剤師Aは治験薬管理室在室者へ口頭のみで共有しており、文書等での十分な情報共有は行っていなかった。治験薬管理室では試験ごとの担当制としてはいないが、電話の内容が文書により共有されなかったことにより、電話を受けた治験薬管理担当薬剤師Aの属人的業務として治験薬管理室内で受け取られた可能性がある。
2024年8月20日、搬入業者より投与用の試験薬が予定通り治験薬管理室に搬入したが、受領した治験薬管理室担当薬剤師Bはサテライトファーマシー側の窓口となる担当者が不在であったため、薬剤の移動に不安があり、翌日以降確認後の対応とし、同日は治験薬管理室にて保管した。
本試験は内服剤と注射剤の試験薬が併用される試験であり、2024年8月21日14:14に処方オーダーのあった内服試験薬の調剤を行った治験薬管理室担当薬剤師Bは、注射オーダーが発行されていることを確認していたが、これと前日に搬入された投与用の試験薬が結び付いていなかった。また、治験薬管理室担当薬剤師Aは、前日に試験薬を受領したことを薬剤師Bから引き継いでいたが、繁忙であったのと、使用期限切れの薬剤はサテライトファーマシーに在庫していないと考えていたため、必要時にはサテライトファーマシー担当薬剤師より電話連絡があると考え、投与用試験薬のサテライトファーマシーへの搬送を後回しにしていた。本試験は2024年8月21日以降に実施されることが共有されており、2024年8月21日の朝までにはサテライトファーマシーにて使用できる状態にしておかなければならなかった。
サテライトファーマシー担当薬剤師は、14時13分の担当医師による実施可入力を確認し、当該試験薬の混合調製を行なった。当該サテライトファーマシー担当薬剤師は、投与用の試験薬が治験薬管理室担当薬剤師により適切にサテライトファーマシーで通常通り管理されていると認識しており、サテライトファーマシーの試験薬保管庫から取り出す際に使用期限を確認しなかった。
投与終了後の同日16時30分頃、当日の内服薬の処方箋をもとに帳簿記録と照合する作業を治験薬管理室担当者Aが行っていたところ、サテライトファーマシーに搬送していないはずの試験薬が電子カルテ上で投与実施済みの記録となっていることを発見した。直ちにサテライトファーマシー担当薬剤師に確認したところ、サテライトファーマシーにあった期限切れの試験薬が使用されたことが発覚した。

【臨床研究の対象者への影響】
当該研究対象者へは、2024年8月21日17時半頃に経緯の説明と謝罪をしており、その時点では有害事象の発生はなかった。
しかし、8月24日頃より38〜39°Cの発熱と咳、倦怠感がみられるようになり、カロナール(解熱鎮痛薬)を内服しつつ8月27日にかかりつけ医を受診し、コロナとインフルエンザの検査は陰性で、血液検査で炎症反応(CRP)の上昇がみられたこと及び症状から薬剤副反応ではなく「上気道感染」としてカロナール継続となった。8月28日に当院を受診し、血液検査では炎症反応は低下傾向であった。8月30日には37.2°C前後まで解熱し、症状も軽快傾向となっている。
投与した期限切れ試験薬の有効性については、臨床試験の初回治療から1週間程度であることから、現時点では不明である。
当該研究対象者は試験継続を希望されており、イマチニブの内服は継続中であり、9月11日に2回目のペムブロリズマブ投与を予定している。
なお、当院では現在投与継続中の対象者は今回の研究対象者以外にはおらず、九州がんセンター、東北大学病院、静岡がんセンター、名古屋大学医学部附属病院で投与継続中の研究対象者がいる状態である。
また、今回研究対象者に投与された使用期限を約9ヶ月超過した試験薬の品質および安全性・有効性への影響について、試験薬提供者に見解を確認中である。

【臨床研究における対応】
8月21日20時に慶應義塾臨床研究審査委員会に重大な不適合事案第1報として報告し、質疑応答を経て8月22日に受理された。同日病院長へ報告されている。本事案は、8月26日の委員会審査にて承認された。その際の審査結果通知書付記事項に対して、8月30日に重大な不適合の続報(第2報)を提出した。
また、当院での新規登録の停止と当該研究対象者の試験継続等について、8月30日に効果安全性評価委員会に審議依頼した。この審議結果に基づき、再発防止策の策定と慶應義塾臨床研究審査委員会で再発防止策の審議・承認が得られるまでは、当院での新規組み入れは停止することとした(8月27日に登録システムを停止済み)。
当該研究対象者については、安全性に注意しながら試験を継続する方針である。
その他、当院の分担医師、各施設研究責任医師、薬剤提供元であるMSD株式会社、大原薬品工業株式会社、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)に報告を行った。
これらのことについては、学術研究支援課を通して病院長とも共有しながら対応を進めている。

是正措置

【再発防止策(現時点での検討内容)】
1.試験薬管理体制の見直し
① 管理を厳重にするため、薬剤部で保管している調製が必要な試験薬は、腫瘍・免疫統括医療センターサテライトファーマシー等には保管せず、治験薬管理室にて一元管理することとし、既に実施済みである (本試験のみサテライトファーマシー保管を行っていたが、運用変更し部内で共有した)。
② 月1回の使用期限チェックの手順を明確化するとともに、治験薬管理簿への記録方法を統一する。また、使用期限切れ試験薬は発見した時点で隔離することを徹底し、隔離した試験薬は回収、廃棄の手続きを速やかに行う。6 カ月以内に期限切れとなる試験薬は注意喚起の目印を付ける。またこれらの手順書を見直し、治験薬管理室内で共有する。
2.治験薬管理室の情報共有体制の見直し
① 試験の進捗、試験薬の搬入等のやり取りは、電話だけでなく、必ずメールで記録を残すようにし、治験薬管理室内で情報共有できるようにする。
② 期限切れ試験薬、期限が近い試験薬がある場合は、速やかに搬入の手続きを行う。例外として、試験薬供給等の事情により搬入を一時保留して必要時に搬入となる場合は、搬入連絡の際に、在庫、投与日に注意し、治験薬管理担当内で情報共有する。また、搬入後の試験薬は速やかに使用できる体制を整えることを徹底する。

引用元

https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001303137.pdf